【オトナの階段】私の女子高生の時の失恋物語

「優奈、何見てるの?」

「……なんでもない」

親友の千尋に声をかけられて、慌てて窓の下の人影から視線を外した。
「知ってるよ。冴木先輩でしょ?」

「そ、それは……」

いつの間にバレていたんだろう。

「あ、その顔はどうしてバレたんだろうって思ってる?」

「うん」

「それだけ目で追ってたら分かるって。先輩も気付いてるかもね」

「嘘っ!」

「嘘……とは言い切れないかも」

冴木先輩に私の気持ちがもし知れていたら……考えただけでドキドキしてしまう。

密かに憧れるだけでいいって思っていた私の恋。

2つ上の高校3年生である先輩とはいつか別れが来るのは分かっていたから。

「そうやって眺めてるだけで青春終わらせちゃう訳?」

千尋は好きな相手に好きだって堂々と言える子だ。

その強さに惹かれて、私はいつも千尋と一緒にいる。

千尋は千尋で、優奈といると落ち着くなんて言ってくれるから双子みたいに寄り添ってた。

「祐介くんとはうまくいってる?」

「うん、私から告ったけど、今は向こうのが好き好きうるさいくらい」

だから、と千尋はにっこり笑う。

「どうせ見てるだったら、伝えちゃえば?」

「もしダメだったら?」

「何も変わらない。ううん、冴木先輩に優奈のこと知ってもらえるし、告白されて嫌な気持ちになる人はいないはず」

「そうかなあ……」

「顔が好きなだけじゃないでしょ?先輩が皆に優しいところが好きなんでしょ?」

「そうだけど……」

そうはいっても冴木先輩が高嶺の花過ぎて、どうしても歯切れが悪くなってしまう。

誰にでも優しいのは本当。

入学式で迷子になっていた私を嫌な顔せず教室まで連れていってくれたくらいに。

だぶんきっと先輩は私のことなんて覚えていないけど。

「もし気持ちを伝えないまま先輩が卒業しちゃったらさ、ずっと思い出だけ残っちゃうよ」

「…………」

「恋に臆病なのは分かるけど、ずっと踏み出さないままだったらって、それがすごく心配なんだ」

千尋の気持ちが、痛いほど伝わった。

このままだったら私は先輩を引きずったまま、他の誰かを先輩と比べながら恋することになる。

「ありがとう。私、行ってくる」

「行くって……どこに?」

「先輩のとこ」

突然の私の行動に千尋は一瞬ぽかんとなって、それから手を振る。

「優奈のそういうとこ大好き。いっといで。ダメだったら抱きしめてあげるから」

高鳴る心臓を抑えながら、カンカンと階段を下りていく。

そこで、ちょうど靴を履きかえようとしている冴木先輩を見つけた。

「あのっ」

「ん?」

こんなに間近で先輩を見たのは入学式以来だ。

「私、1年の飯田優奈って言います。入学式で道案内してもらった時から先輩が……好きで……」

そこまで言うと、先輩は一瞬考えてから、

「あ、あの時の迷子ちゃん」

と手を打つ。

「は、はい」

「俺なんかを好きって言ってくれてありがとう。でもごめん、中学から付き合ってる相手がいるから」

「わかりました。いいんです、いいんです」

千尋の言った通り、振られているのになぜか心がすっきりしていく。

「本当に気持ち嬉しかったから」

「はい、じゃあ失礼します!」

大丈夫。

悲しくなんかない。

先輩からのありがとうの言葉で、好きになってよかったって思えた。

だけど……やっぱり涙はこぼれるから、私は急いでまた階段を上ると千尋の胸に飛び込む。

「頑張ったね」

何も聞かず、優しくなでなでしてくれる親友の腕の中で、一つ大人になったようなそんな気がした。

【END】

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